【ネタバレあり】「グッバイ、ドン・グリーズ!」感想

推しアニメの一つ「宇宙よりも遠い場所」(よりもい)のスタッフが制作した劇場アニメ「グッバイ、ドン・グリーズ!」(ドングリーズ)。ムビチケを買ったのと試写会に呼んでいただけて2回、あと小説も読んだので色々考察したり感想を語ってみたいと思う。

※この感想は【ネタバリあり】です。必ず1回は見てご自身の中で感想を作ってから読んでください

この作品は当然「宇宙よりも遠い場所」と違う作品で同じものが見れるわけでもないし、楽しむために試写会で拝見する前に期待値を出来る限り低くして観た。その結果宇宙よりも遠い場所」でも凄いと感じていた立体感のある映像の美しさ、音響の凄さを更につきつめた出来に感心しながらも脚本の方で良さを感じつつもギアを上げきれなかったというか、いまいちハマれなかったのが素直な感想だ(ただ見て後悔したとかは全くない)。

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その原因はいくつかあるが、多分一番大きいのはこの物語に親近感を覚えつつももあまり2つの問題で目新しさを感じなかったり、共感できなかったからじゃないかと思っている。

問題1:ファンタジー(未知)の舞台

1つは舞台の問題だ。PVでアイスランドを推していたのでてっきり冒険の大半はアイスランド雄大な景色をバックに繰り広げられるのだと思っていた。(一応よりもいとのコラボPVで結月に「舞台は関東の田舎町って書いてますよ」と言わせたりしていたが)しかし観た方はご存知の通り、アイスランドはロウマが終盤に冒険する地であり、物語には深くかかわってこない。冒険は終始日本の田舎で行われる。

田舎の山が舞台になっているので、宇宙よりも遠い場所では出来なかった、ルートをかえたり迷う、走り回る、転ぶシーンが描かれている。しかし田舎の山は私のような田舎に住んでいた者や登山、キャンプ、トレッキングをする者なら、なんとなく勝手を知っているか想像力が働いて「分かった気になってしまう」ので(作中はものすごく綺麗に描かれていたが)目新しさが少ないのだ。
例え現実を舞台にしていても私は何らかの目新しさ、未知があるといいと思っている。例えば職業特有の悩みや楽しさ、その土地ならではの苦労や名物・名産、人物でも性格の違いによる視点の違いなど。それが共感できるキャラクターと出会うことで新しい扉が開くのを見るのが私は好きなのだと思う。

劇場版オリジナルアニメの難しさ

恐らくこの作品で未知を担っているのはドロップだろう。ロウマにとって高校生でもなければ、寿命が限られているドロップはロウマにとってチボリのような遠い憧れの存在ではなく、世界が今いる地点と地続きであることを認識するきっかけになった存在である。

しかし私は最初に見た時、正直肝心のドロップが何者なのか分からなかった。勿論設定はわかるが彼がどういう気持ちなのかが掴めない。それもそもはず。この作品はやることが多いのだ。90分の間にロウマの境遇、トトの境遇、ドロップとの出会い、命題の提示、冒険、ドロップの真実、旅の結末、トトの気づき、ロウマの気づき、オチを次々に面白くしながら入れなくてはいけない。

実際、2回目に見ると少し面白くなるのはドロップの感情が少しは分かった上で観ているのもあると思うが、出来れば初回でそこまで行きたかった。あと2回見ても冒険の最後で道が湖に閉ざされたところで泣くのは共感が出来なかった。自分だったら落胆するかもしれないが、果たして泣くだろうか。ここは人によって違うだろうから割愛しておく。

実際たくみに構成を練っているのは感じたのであと30分長くすれば説明できたかもしれないが、そうなると逆にちょっと冗長になってしまうのかも。劇場版オリジナルアニメの脚本は本当に難しいのだろう。

余談1:ドロップの冒険の謎

ちなみに他の方も気になっていると思うが「ドロップはどうやってロウマに辿り着いたか」という謎、結論から言うとこれは偶然だと思う。小説版も読んだが、ドロップは祖父がいるアイスランドにいたが、「祖父の具合が悪くなったので遠い親戚のいる日本にやってきた」と言っている。しかし映画を観た方ならわかる通り、ドロップは不治の病にかかっており余命いくばくもない。故に祖父の具合が悪くなったというのは嘘か直接的な原因ではないと思われるが、親戚のいるというのは本当だと思う。

彼は滝の前の電話ボックスで2人がかけた間違い電話から啓示を受け、自分の最期を見届けてくれる友達を作りたいと思った。日本に帰ってきたのは、現地で(通院生活もあって)なじめなかったか、最期を祖父に見せたくなかったのか、親元で過ごしたかったからだと思う。その結果田舎町でロウマと出会う。もしかしたら最後まで電話の向こうにいたのが2人だったとは気づいてないのかもしれない。(私はそれでもいいと思っている)。

なお2人の出会いについても小説版は少ししっかり描かれているし、2回目の視聴もたのしくなるので、よければ買ってほしい。

余談2:電話ボックス

他の方の感想を読むと黄金の滝の電話ボックスが創作だと思っている方が何人かいたのでふれるが、アイスランドには、というか世界中には自然の中にポツンとある電話ボックスというのが割と沢山ある。ちなみに自然の中にあるコーラの自動販売機もあるらしい。ぜひ調べてみて欲しい。

問題2:疎外感≠不満

もう1つの問題は、私が疎外感を感じながらもこれまでの人生に不満が無い事、そしてこれまでの人生や「宇宙よりも遠い場所」で世界の広さに気付いていたという問題だ。

私は日本では神奈川県のド田舎に住みつつも、子供の頃から日本から海外に移り住み、その後小5で日本に帰ってきた経験をもつ。古くからの友達も少なく、性格も変だったので学生時代は割と浮いた存在だった。だがロウマみたいに自分の境遇を嫌いになる事もあまりなかった。幸いなことに趣味もあったし、やりたい事もある。道を固定されている事も無かったし、健康である。いわば男子3人のいいとこどりのような人生を送っている。

本作では山が人生の象徴でもあり、道が閉ざされていてもルートを変えて諦めず進むことで活路が見つかるという事を繰り返し描かれているが、これはその通りで、人生とは探ってみればいくらでも楽しい事は見つかるし、やってみたいことも見つかる。だからロウマのように疎外感は感じていても(というか今でも時々感じたりするが)あまりそれについて悩んだりしたことがなかった。おそらく作中のロウマやトトの最大の問題は人生に正解があると思ってしまっている事や自分の人生に意義が感じられなかったではないだろうか。しかし実際は人生の正解や意義はあって無いような物だ。それは最初から分かる物ではなく色々な経験をしていく中で掴んでいくものだ。まずは先に進んでみる事が大事だと思う。2人の人生に幸あらん事を。

宇宙よりも遠い場所」で世界の広さを知る

また殻を破って世界の広さを知る事もこれまでの人生や「宇宙よりも遠い場所」が放送されてからの4年間で経験してしまった気がする。よりもいで出会った人々は本当に変な人が多い(誉め言葉)。よりもいと全く関係ないテーマでキャラを使って絵を描く人、自転車で横浜と舘林を往復する人、東京に住んでるはずなのに毎週のように舘林から写真を送る人、国外から南極を経由して好きなアイドルのライブに参加する人・・。彼等と行った様々なファン活動は紛れもない私の宝の一つである。

また自分の住んでる割と近くに元観測隊の人が開いたお店などがあることも知り、世界は広く、見識を広げていけば人生はどんどん楽しい事が見つかるのだという希望を再び持てた。

他にもよりもいから宝物は貰っている。3年前に北海道の夕張にある神通坑へ行った旅などは他人から見て価値の分かりにくいという点などで、ドングリーズの冒険と割と近いのではないかと思う。しかし素晴らしい経験だった。

 

あと本作の最後の伏線、よりもいにハマりすぎたせいで画面内の情報を拾う能力が高まりすぎたせいか、1回目でバッチリ気付いてしまったのもあるかもしれない。これに関しては自分が悪いかも。

以上のことから、私はドングリーズを見た後、私は実は見る前からよりもいに幸福にしてもらっていたのだと改めて気づかされた。それもあり、親近感を覚えつつも、楽しみつつも、あまり共感できなかったのではないかと思う。ただこの作品は間違いなく誰かを幸せにしてくれるパワーを持った作品だとも思う。私が「宇宙よりも遠い場所」に貰った宝物をこの作品を通して誰かが得る事を願ってやまない

記事を書いた人

あとそもそもよりもいのようなウルトラ名作を作った後でまだ作りたい物があるいしづか監督&よりもいスタッフって凄いなと素直に思いました(そうしないとご飯が食べられないとしても)。今後も期待してます。